知的障害を持った息子の電動車いす練習の1年の成果
物理的に歩く事が難しく、また知的障害(診断上の判断能力は1歳半)もあり電動機器の操作習得が難しい息子。
そんな息子の「自分で動きたいという意志を引き出す」事を目指した
息子専用のモビリティ(電動車椅子)の開発・練習記録を記しています。
2020年5月に製作した息子用電動移動機器。
大人用電動車椅子(レンタル)に子供用シート(座位保持椅子)を括り付け、電動車椅子のジョイスティックを物理ハックして、
子供が使いやすい簡単コントローラで電動車椅子を操縦できるパーツを製作し、
息子自身が楽しく練習できる環境を構築しました。
そこから週一回頻度で、近所の通学路や公園を散歩する練習を繰り返しすこと1年、
息子は明らかに「自分の意志で操作する(方向を選ぶ)」事ができる
様になりました!
製作してから1年後の走行練習の様子になります。
息子に自分の意志で進む道を選んで欲しいと思い
— おぎ-モトキ@父親エンジニア (@ogimotoki) 2021年3月31日
シンプルな3ボタン操作(前、右、左)に改造した電動車椅子を練習し続け1年
「こっちに行ってみたい」
自分で行きたい所へ進む事が出来る様に
介助者に選んで貰うでなく、
悩みながらも自分で選ぶ道だからこそ活き活きしてる#家族のためのモノづくり pic.twitter.com/evnCUIc5VD
しっかりと自分の意志「こっちに行きたい!」を操作に反映できている事、
どちらの道へ行きたいか自分の意志で進む道を選んでいる事、
自分の行きたい方向と違う場合、それに気付き軌道修正しようとする事
操作修得だけでなく、たった一年で明らかな知的成長を感じました!
そして更に分かった事は、
「息子自身が複雑なルートでもしっかり記憶して走っている」
という事でした。
公園で練習すると、息子は決まって同じ走行ルートを選びます。
時々我々介助者がイタヅラをしていつもと違うルートに連れていっても、その場所から息子自身が自分で上手に車椅子を操作しなおし、いつもの走行ルートに戻ろうとするのです。
車輪兄弟。
— おぎ-モトキ@父親エンジニア (@ogimotoki) 2021年5月15日
逃げる弟と、追いかける姉とで
自然と始まった車輪追いかけっこ
この後、息子はふらっと公園探検に出かけていった
歩けなくても、こうして自分の行きたい方向に動いて遊べる手段があれば、
「次これやってみよ」
って好奇心が広がるんやろな
よし、お父さん、モビリティ作り頑張るよ! pic.twitter.com/JIUbKNB0pB
これは、息子自身が自分の力で動けるからこそ周りが気付けた事、
障害があるが故に周りの人達に気づかれなかった
息子の「分かっている」事、
それが電動移動機器を操作する事で
周りの人たちに
「ちゃんと分かっていると伝える事ができた」
といえます。
電動移動機器は
単なる移動手段ではなく意志表現装置
である、と私は感じています。
改めて、電動車椅子/モビリティの可能性を広げたいと感じました!
新たな課題 ~成長に伴う車椅子乗り換え~
小学生になり体の成長も著しくなり、現電動車いすの座位保持椅子だとサイズアウトする様になるなど、新しい電動移動環境を整える必要ができてました。
日常生活の多くの時間を占める小学校での活用を考えた場合、
今の電動練習用シートで終日の授業参加は難しいため、きっちりと座位調整された車椅子(我が家の場合、手押し車椅子)も必要になります。
また、教室の入口は大変狭く電動タイプだと入るのが難しいため、コンパクトな車椅子はやはり必要となる等、
「電動車椅子」と「手押し車椅子」の2台を使い分ける必要が出てきます。
しかし、市販の「電動/手押し切り替え可能な車椅子」だと、ジョイスティック型なので息子は操作する事ができない……
そこで、取るべきアイデアの一つとして
【手押し車椅子の足回りを必要に応じて電動化する】
事が良さそうでした。
この方法であれば、例えば教室内では手動車いすにして、休み時間は電動化ユニットを装着してお外をコントローラで動き回る
等といった自由度が期待できます!
この【足交換式モビリティ構想】は個人的には結構気に入っています。例えばタンク型台車ユニット等を開発すれば砂浜や屋外ピクニックに行けたり、将来的に足型ユニットを開発すれば階段等のそのまま登れるかもしれない!
本人の操作しやすいコントローラや座り心地(座位保持装置)はそのままに目的に応じて足を取り返していく構想で大変応用が利くと考えています。
今回は汎用性の高く製作しやすそうな電動台車タイプを作ってみようという事で、
【息子の手押し車椅子をそのまま搭載可能な電動移動台車】
を製作する事にしました!
要求仕様
・息子の手動車椅子がそのまま搭乗可能(固定安定性)
・転倒/落下がない様に確実に固定できる
・屋外道路を走行可能 (通学路上の歩道乗上げ 段差3cmが可能である事)
・筐体幅は50cm以下
・息子自身が操作できるコントローラを使える事
・将来的に自動運転やセンシング機能を拡張しやすい電気/メカ構成である事
ベース発想は、2年前に分身ロボット開発者・吉藤オリィさんらとプライベートで一緒に製作した
『車椅子ごと乗れる視線入力操作台座(車椅子on車椅子)』
GWにインターン達と作った視線入力走行台座システム
— 吉藤オリィ@分身ロボットカフェ実験中 (@origamicat) 2019年5月26日
日本ALS協会の総会に持って行ったら「自分の意思で移動ができたのは何年ぶりだろう」「翼が生えたみたい」と、とても喜んでもらえたよ#ALS pic.twitter.com/o5TywkSsVB
平成~令和へと時代が変わる瞬間に、夢中になってプライベートで製作をした作品です。
このコンセプトは
「姿勢保持が難しく電動車椅子に乗る事が出来ない方/車椅子への移乗が大変な方でも電動車椅子操作を体験してもらいたい」
という事で、その方の専用車椅子をまるごと電動ユニットに搭載できる様にしました。
そのため、大人用ストレッチャー型を最大想定サイズとすべく台車筐体のフットプリントを大きく作る必要がありました。
一方、我が家はマンションで、エレベータドアの横幅70cmであるため、日常使いを想定するならば、もっとコンパクトにする必要があります。
そこで、息子の子供用車椅子サイズをカバーするサイズ感を前提にした電動台車を製作しました!
製作方法
走行ベース選定
前提となる走行車両ベースについては、以下の三案で検討しました。
① 大人用電動車椅子を購入して、モーター+コントロール部を流用
② バランススクータを購入して、モーター+コントロール部を流用
③ モータ/ホイール/モータドライバのパーツ一式を調達 & 新規製作
一番 製作物の自由度が高いのは③ですが、開発当初(2021年5月)は屋外道路を走るのに十分な走行性能を持つパーツを揃える事が出来てませんでした。
(屋内用ロボット向けに③の選択肢はたくさんあるのですが、人を乗せながら段差数cmを乗り越え可能な低速移動機器を作るのは、結構大変なんです…)
そこで、②を前提にして、まずは性能評価を試みてみました。
試しにバランススクーターに乗った状態で手動車椅子を後方から押す様な疑似電動化の実験をしてみたところ、
走行性能としては十分な結果を得られました!
年末に入手したミニセグウェイ実験
— おぎ-モトキ@父親エンジニア (@ogimotoki) 2021年1月11日
手押車椅子の介助者と組み合わせると、、、
実用的な面白モビリティに進化!
二輪のみだとバランス難しいが、前面の車椅子ハンドルを支えに安定するし、介助ブレーキで安全に止まれる
何より楽しい!
介助者と、当時者が、
一緒に楽しめるモビリティ、作りたいな pic.twitter.com/vtV2P7uYE1
そこで、バランススクータの分解ハックを試みようと思ったのですが、
・ 娘がバランススクーターを気に入ってしまって分解できなくなった(笑)
・ 身元不明なバッテリー(36V)のついた回路周辺を自宅リビングで触る事に抵抗があった (発火の危険あり)
という理由により、②も自粛しました。
そんなところで悩んでいたところ、偶然ながら中古品オークションサイトで電動車いすを見つけました。
新品が販売されているサイト
ja.aliexpress.com
電源が入らないという症状で出展されていたので価格は通常購入3割以下でしたが、モーター類は生きていると予想して、ダメ元で購入しました。
これが大当たりで、どうやら使っていたバッテリーの不良だった様で、外部電源(24V)を使う事で問題なく両車輪を駆動させる事ができました。
このモーターとコントロールユニットを外して、新設の台車に取り付ければ、それを外部コントローラで制御できれば、
思ってた機体が作れるかも!
無事にベースパーツが見つかった事で一気に製作モチベーションがあがり、GW期間を使って開発を進めました。
筐体製作:アルミフレーム
まずは Fusion360を使って、筐体デザインを考えてみました。
台車型で難しいと感じたのは、モータの取付位置ですね。手押し車椅子の横幅が約44cmでしたので、
厚みのあるモーターを手押し車椅子の下につける or 横につける で悩みました。
・モーターを下につける → 台車の高さが上がる
・モーターを横につける → 台車の幅が広がる
今回はコンパクトさを重視するため、【モーターを下につける】にしました。
その結果、手押し車椅子の高さが上がってしまうので、手押し車椅子の乗せ下ろしが課題になりますので、そこは別途 対策を考えたいと思います。
台車部分については、『アルミフレーム』を初めて使ってみました。
特にmisumiのアルミフレームを使うと、
・任意の長さ(mm単位)のアルミフレームを購入可能
・L字などのパーツで簡単に90度取付などができる
・ネジ取付位置を自由に変更できる(後はめパーツ)
等、強度が必要な製作物を作るのに便利です。
(ただし、misumiは法人/個人事業主の方しか使えないサービスなので、個人事業主になるか、友人等に代理購入などをお願いするか、という事が必要になります)
ただ、今までアルミフレームを使った事がない人にとっては、
「パーツの種類が多すぎてどれを選んだらいいか分からない」
そんなときにおすすめなのが、【MiSUMi FRAMES】というソフトです。
初めてのアルミフレーム設計に、MiSUMi FRAMESというソフトを使ってみたけど、これは初心者にもありがたい簡単仕様!
— おぎ-モトキ@父親エンジニア (@ogimotoki) 2021年4月30日
部品表と紐づくので品番を間違えるリスクも少ないし、どれを買えばいいか分からない結合パーツも自動で紐づいて発注できる
DIYよりも簡単に組立てできるし、寸法変更もやりやすい pic.twitter.com/qlEbMARmop
これでデザインすると部品表にまで落ちてくれるので、最初の一歩に向いています。
到着したパーツは、六角レンチ一本で簡単に組み立てていけます!
筐体製作:板金製作
アルミフレームへのモーター固定については、もっとも荷重がかかるポイントでもあるので、ちゃんと板金を作って固定する事にします。
そこで、MiSUMiのMeviyという板金製作サービスを使ってみました。
fusion360でデザインしたパーツを板金パーツとして設計する方法は以下記事を参考にしました。
板金化したのは以下の計4か所のパーツ
・駆動輪のモーター固定パーツ
・補助輪のキャスター固定パーツ
fusion360で製作したCADデータでそのまま板金が出来る!
そしてわずか3日で届く!
すごい!
補助輪の固定については、板金だけだと厚みが足りず駆動輪との高さ関係が合わなかったので、
「3Dプリンタで厚みを増やすパーツを作り、両端を板金で挟み込む」
という構成を作りました。
板金+3Dプリンタを組み合わせたら強度の高い立体物も製作できる
ので、とても便利ですね!
メカ製作 完了
初めての個人でのフレーム製作でしたが、大人が乗ってもビクともしない安定した台車の機構が無事にできました!!
息子の手押し車椅子の電動化ユニット製作
— おぎ-モトキ@父親エンジニア (@ogimotoki) 2021年5月8日
GW中にコツコツと設計&組立てして、フレーム&車輪が無事に取り付いた!
車椅子もぴったりと台車に固定できそう!
コンパクト幅なので、狭いエレベーターにも乗れそうだ!
これから電装系を作り、スイッチで動かしていくよ#家族のためのモノづくり pic.twitter.com/KtaHzabAlb
今回の製作は我が家のリビングで行っていて、まさに実際に使用する環境の場所そのもので製作していたおかげで、
製作時に配慮が漏れそうな日常の動線(狭いエレベータや運搬用廊下)も問題なく通れる等、
様々な実用課題へのフィードバックを作りながら実施する事もできました。
超具体的な利用シーンをイメージしながら製作する
事の重要性を認識しています!
自宅リビングで開発した電動台車モビリティ
— おぎ-モトキ@父親エンジニア (@ogimotoki) 2021年6月6日
開発には不向きな環境だけど、その分実際に使う場面を常に確認&フォードバックできるのが強み
おかげで、狭いマンションのエレベーターや、実際の日々の通学使用を想定したコンパクトな筐体にする事が出来た
使ってもらう現場での気付きこそ、改良の母 pic.twitter.com/X4jAkLHpkf
アルミフレーム+板金+3Dプリンタ
この3つを組み合わせれば、
人の体重を支える事の出来る強度を持った製作
を個人レベルでもできるので、とてもありがたいですね!
電動車いすの様な低速のモビリティ製作はもちろん、
例えば歩行支援機器や、モニター固定など物理的強度が必要な身近な支援機器も
比較的安価で作る事ができるので、技術の応用で色々と作れそうですね!
さて、ここから電気走行系の開発に進めたいと思います。
記事が長くなってきたので、次のページで紹介したいと思います。