OGIMOノート~家族のためのモノづくり~

OGIMOテックノート ~家族のためのモノづくり~

重度障害の息子を持つ父親エンジニアの備忘録。自作の電子工作おもちゃ/リハビリ器具/ロボット関係の製作記録、思った事を残していきます

歩けない息子の足代替モビリティ開発記①-1 ~手作り電動台車 から 車椅子物理ハックへ~

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歩けなくても「自分の意志で行きたいところに行ける」未来は創れるはず!

自己紹介ページでも掲載させて頂いていますが、
生後まもなく脳性まひと診断された息子、6歳時点でも座位・立位が困難です。
医者からも「将来はおそらく歩けない」との宣告を受けています。

もちろん諦めてはいません。
将来の可能性を広げるため、リハビリ練習を通して「歩く練習」を続けていますが……
ふと思います。

それだけで良いのだろうか?


この年代の子供達は「歩く事」を通して自分の好奇心の赴くまま、行きたいところに行き、たくさんのモノに出会う事で、興味・意欲・感覚が爆発的に成長していくと感じています。
「自分の好奇心を自分の力で行動に移す事」が成長の原動力になっていると言えます。

では、歩けない息子は、どうするのか?

重度の子供達は、自分の意志をしっかり持っていても、それを表現したり行動に表すのが苦手なのです。
歩けない事で、自らの意志(例えば、あのおもちゃを取りに行きたい、という願望)を行動に移す機会を消失してしまい、心の成長機会すらも逃してしまいかねません。

そんな状況の中、物理的なリハビリとして「歩く練習」だけを行うのは、、、何かが違う。


歩行練習の最終目的は
「自分の意志で、行きたいところに行き、会いたい人に会える。
   そんな当たり前の願望を叶えるための環境を作る事」

だと私は考えています。

であれば、物理的に歩くのが難しいならば、歩く以外の技術手段で「自分で動きたいという意志を引き出す」事に取り組むべきと考えました。

単なる移動手段としての技術ではなく、

 子供の好奇心を広げ、
 自らの意志を、自分の力で実行できる経験作りを通して、
 子供の発達・成長を作る機器

それが足代替モビリティの可能性だと感じています。



私がロボット業界に転職したのも、この様な息子の意志を具現化する手足サポート技術を作りたいという想いがきっかけですが、
今一番大事なのは10年後ではなく、まさに今の子供の成長機会を逃さない事!

そのため、今ある技術を息子の使いやすい形にアレンジして、不完全ながらでも体験機会を作る事が大事です。

足代替の移動機器として、現在の主要技術機器として「子供用電動車椅子が挙げられます。しかし、以下の課題があるため、購入に踏み切れない現状があります。

<課題>
・息子は座位すら困難なため、市販の小児用電動車椅子にも乗れない
・新しいモノを受け入れるのが苦手(恐怖を感じる)
電動車椅子ジョイスティックの操作の仕方が分からない

また、現在の福祉制度だと…公費よる支給で電動車椅子を作るには、「安全に操作できるスキルを持っている事」が要件になっています。
知的に遅れのある息子はそのスキルを現時点では持ってないので公費支給は期待できません。
練習しないとうまくならないのに、最初から操作できる人でないと買えないという矛盾の状況なのです。

しかし、その状態で止まっていては先へ進めない!
「なければ、工夫して自分で環境を作るしかない!!」
と決意し、電動移動練習のためのモビリティ機器製作に着手しました。



<要求仕様>
 ・息子が怖がらず受け入れてくれる事
 ・知的障害を有する息子でも操作できる簡単なI/F(ボタン等)
 ・座位困難な息子でも乗れる事
 ・日常的な場所で練習できる走行安定性を持つ事


ちなみに、練習したての頃の息子の様子です。

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こちらは、BabyLocoという小児用電動移動機器です。

www.mech.usp.ac.jp
(上記サイトに製作マニュアルも載っているので、スキルがあればDIY製作できそうです)

これを導入筆頭候補として試験練習を進めようと考えてましたが、当時の息子には合わず撃沈…

原因は複数あったのですが…
馴染みのない乗り物、息子の苦手なモータ音、いつもと違う練習環境、急に動き出す事への恐怖。
これらの「いつもと違う」が重なってしまい、乗り物に【恐怖】を覚えさてしまった様です。。。

なので、まずは本人の『乗り物に対する違和感を取り除く事』に注力しました。
  
   
   


取組み① 息子用姿勢保持椅子の電動台車ユニット製作 (2019年9月)

www.youtube.com

これはBabyLocoや同プロジェクトのCarryLocoのコンセプトと同じで、息子が普段から使っている座位固定椅子の下に電動台車を搭載する形式です。
「普段の慣れた椅子という安心感」「スイッチ一つで前に動く簡単さ」
電動移動の初めの恐怖を緩和する事を狙いました。

工夫ポイント

材料は、廃棄予定のプロンボード(立位台)を活用してDIY加工して、電動ユニットを取り付けました。

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息子が普段から使っているパンダ椅子(ティルト式)を上に安定固定できる配慮と、パンダ椅子+本人の体重でも十分移動できる駆動パワーを持たせました。
操作系として、台車本体に有線で接続するスイッチ端子を用意し、スイッチ押し操作のみで前進できる様にしました。
また、有線スイッチとは別に無線コントローラも並行して接続可能なため、介助者による操作補助や別コントローラを使った娘用モビリティとしても活用する事を狙っています。


製作システム

簡単なブロック図は以下になります。

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台車の筐体部は、息子が使っていた「プロンボード(立位台)」を分解して、その板部分を使いました。

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モーターは、車載用の12V駆動パワーウィンドウモータを使います。
モータの中では比較的安価でパワーがある事に加え、DCモータに比べて静音であるため、息子のモーター音への恐怖心を減らす狙いで選びました。

ホイールは、ハンマーキャスター製のゴム車輪を選定しました。
パンクレスなのと、ドリルで穴があけられるので加工しやすいのが特徴です。平坦な場所であれば、十分走行可能です。

バッテリーは、安全のため12V鉛バッテリーを使っています。

それ以外の制御モジュール及び制御ソフトウェアについては、先日に開発した子供用電動モビリティ Mottoyの改造システムをそのまま流用しています。

ogimotokin.hatenablog.com


なお、本製作にあたり、株式会社るーと様で製作されたSmileLoco(簡易版CarryLoco)の製作方法をアドバイス頂いたおかげで、金属椅子をも搬送できる台車を短期製作できました。

https://www.latest.facebook.com/SmileTechFactory/


また、実際に作ろうとしても木材DIY未経験がネックで手が止まっていたのですが、ご縁から分身ロボット研究者・吉藤オリィさんとご一緒に2019年5月に「視線入力対応の車椅子台車製作」に携わる事を通して、DIY経験ノウハウを積む事ができて、本製作に繋がる事ができました。何らかの形でよいので、一度『経験する』という事はモノづくりに置いて大事と感じます。



取り組み成果

まずは、息子の恐怖心をなくすため、馴染みの自宅リビングで練習を行いました。
姿勢保持椅子に座った状態では特に嫌がる様子もなし。

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練習開始。
一旦、親が手を差し伸べながら、スイッチを押すと自分(椅子+台車)が動き出す事を繰り返し実証。
最初は、動いた瞬間に「びくっ」とビビった表情を見せてましたが、以前のMottoyでの練習時に比べたら受入れが圧倒的に早かったです。
やはり、狙い通り「馴染みのおうちの中で練習できた事」「モーター音がしない事」が息子の心理ハードルを一つ下げた様です。

しかし、リビング内で電動台車を使うには狭い事と、電動機器に乗る目的が本人にとって面白くなかったため、5分で嫌がって「早く降ろせ!」と叫びだす…

数分でも嫌がらずに乗る事が出来る様になった事は大きな成果でありますが、同時に
明確に「〇〇の場所へ行く」とかの目標場所を設定してやらないといけない事が分かりました。
そのためにも、屋外練習環境で走行できる機体の準備が必要になってきます。





取組み② 大人用電動車椅子を使った1ボタン操作ユニットの開発 (2019年10月)


上記取組み①で課題となった「目的地意識」を高めるためにも、屋外練習を想定していきます。
しかし、①と同じ台車構想で考えると、性能よいブラシレスモーター、ホイール等を調達・設計する事になり、それなりに時間がかかります。

まずは簡単に屋外走行の息子への有用性を試したいと考えていた時に候補にあがったのが、入手しやすい大人用汎用電動車椅子のレンタル
レンタルであれば一か月などの短期間でも対応できるし、もし息子に合わなければすぐに返却すれば高額出費を防ぐ事ができます。

今回は、「乗り物に長時間乗り続けられる事」を目的として、
市販電動車椅子をベースに子供用操作I/Fのみを自作する事で、本システムの可能性を模索してみました。

工夫ポイント

レンタル機器を使うため、車椅子本体には一切改造を加えない事を必須にしました。
そのため、『本体ジョイスティックを外部機器(サーボモータ)で物理的に動かす物理ハックユニット』を新規製作しました。
この物理ハックの考え方は、その他の様々な電動車椅子でも適用できる可能性があります。

また、座位保持の課題については、「親の膝の上に子供に座って貰いながら使用する事」で割り切ります。
これにより、大人用車椅子では難しい子供の座位保持の課題を解消すると共に、子供の安心感を確保する効果もあります。

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「ボタンを押している間だけ前に進み、ボタンを離すと停止する」というシンプルな操作インターフェースにする事で、
子供に直感的に分かって貰うと同時に、安全性も確保します。

製作システム

簡単なブロック図は以下になります。

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電動車椅子には、折り畳みできる電動車椅子ラスレルをレンタルさせて頂きました。

www.kashidasu.co.jp
amazonから購入も出来る様です。

https://amzn.to/3f2yVb1

  
ラスレルの良いところは、
・折り畳んで車内後部に積み込める → 公園等の外出先に気軽に持ち運べる!
・移動し始めの加速がゆっくり電動車椅子に不慣れな子供も怖がらずに乗れる
  
一度試乗したところ、息子も怖がらずに受け入れてくれそうだったので、今回はレンタルしました。

最近ではamazonでも比較的安価な電動車椅子がいろいろとありますね。このジョイスティック形状ならば本取り組みが適用できそうですね。(さすがに未検証ですが)

  


制御システムはシンプルで、制御Arduinoマイコンサーボモータが繋がってきます。
サーボモーターとしては、ジョイスティックの固さから捉えて高トルク品が必要と考えて、MG996Rというサーボモータを選定しました。
 


製制御プログラムはシンプルで、ボタンを押したらサーボモータを回転させて、物理的にジョイスティックを倒すという超シンプル構成になります。
こちらの「ボタンを押すとタンバリンを鳴らす演奏装置」の作例が同じですので、参考ください。

ogimotokin.hatenablog.com

  
サーボモータジョイスティックを倒す機構部分は、ジョイスティック寸法を実測して、モデリング3Dプリンタで製作しました。

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ただ、ジョイスティックの横にサーボモータを置いただけだと、押し込む時にサーボモータ自体が動いてしまうので、ユニット筐体(緑色部)にモーターを固定します。ユニット筐体はジョイスティックコントローラと共締めして車椅子本体と固定します。

本製作デメリットは、3Dプリンタなので耐久性が弱い事になりますが、
壊れてもすぐに作り直せる事暴走した時には筐体を壊して停止させる事が出来る事が逆にメリットになります

本使用スイッチについては、子供に応じて使いやすいモノを選んでください。
我が家では、先日製作した大きめスイッチを採用しています。

ogimotokin.hatenablog.com


取り組み成果

周囲に障害物の少ない広い公園で練習開始しました。

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まずは、スイッチを使わず、お母さんに抱えられた状態のままで、お母さんの手による操作で、公園内を走行します。
息子に安心感を与える事、そして息子の様子を見ながら好きそうな場所・コース取りを考えるのが狙いです。

30分ほど走行した結果、木々の下(木漏れ日が漏れる場所)を走るのが好きと分かりましたので、その場所で今度はスイッチを押して前に進む練習を行います。
最初は息子も怪訝そうにしてスイッチを押そうとはしなかったので、母による介助でボタンを押しながら前に進む。
これを10分ほど繰り返しましたが、拒否反応なし。
好きな場所で景色がゆっくりと変わっていく事に興味が移ったおかげだと思います。
やはり屋外での練習は子供の興味を広げるのに効果的だと実感しました。


少しずつ練習を重ねていくうちに、
「スイッチを押す」=「前に進む」の繋がりはなんとなく理解できてきた様子です。



しかし、ここで問題が発生。
まっすぐ進んでいるつもりでも徐々に左右にズレていきます。。。。

原因は、道路の傾きです。そのまま進むと路肩にはまってしまうため、その都度 親の手でスティックを直接操作して補正しないといけません
その度に、子供のスイッチを強制的に取上げてしまう事になり、そのテンポの悪さに子供が不機嫌になってしまいます。

本取り組みにより屋外練習による効果の感触はつかめたのですが、今後 練習を重ねていく上では「左右補正の簡易化」と「緊急停止」が課題になりそうです。





取組み③ 左右調整可 電動車椅子の1ボタン操作ユニットの開発 (2020年1月)

www.youtube.com

上記取組み②を踏まえて、これをベースに更に練習しやすい技術工夫をしていきたいと思います。
更に、練習環境として、公園などの広場に加えて、もっと日常的な場所(例えば、通学路や家の近くなど)で使えると、更に本人の「進みたい」モチベーションが上がるのでは、と考え、対応を検討しました。

その結果、
・左右にずれていっても簡単な操作でシームレスに走行方向を補正させる
・万が一危ない場合は、すぐに停止させる事ができる

ための機能を追加開発しました。


工夫ポイント

電動車椅子ジョイスティック物理ハックシステムを進化させました
・ 左右方向にも操作できるアームを追加
・ 介助者用無線コントローラも接続できる様にした
・介助者から緊急停止もかけれる

「搭乗者スイッチ(有線)」と「介助者コントローラ(無線)」の2つから操作できるので、例えばスイッチによる前進操作をさせながら介助者による左右調整もシームレス(連続)で実施できます。
介助者の操作を無線制御にした事で、第三者が周囲を見ながら安心してサポート出来る様になりました。
前回取り組み②だと、抱っこしてる人が左右操作しながら子供の様子も見ないといけず負担が大きかったので、これにより負担が分散できる効果もあります。

  

  

製作システム

簡単なブロック図は以下になります。

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制御システムは上記取組み①と同じで、左右のモータ+モータドライバの代わりに「サーボモータ×2を制御するイメージ」になります。
1つ目のサーボモータでスティックの前後方向、2つ目のサーボモータで左右方向を制御します。
両者のサーボモータ同士が干渉しない様に3Dプリンタを使い専用アームを製作し、電動車椅子のコントローラにぴったりハマる形で設計しました。

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ユーザー操作ボタンと介助者コントローラの関係を以下に図示しました。

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完全に介助者コントローラ側の操作を優先にするのではなく、緊急想定を覗いてユーザー操作ボタン(前進)は継続させる様にしています。
「ボタンを押す=前に進みたい」という操作者本人の意志を優先したいためです。

ただし、安全を守るのは最優先! 
緊急停止や後退は安全を確保するために必要と考えて、介助者が緊急停止ボタンを押したら操作者の操作に関わらず必ず止まる様に設定しています。


取り組み成果

年末にプロトタイプが仕上がったため、様々な環境への対応有無を把握すべく、両実家に電動車椅子も持ちこんで実家の近所を走行する取り組みを行いました。
(車が来ない場所を選ぶ等、安全面に最大限配慮してるとはいえ、いきなり息子で実証実験をするのは結構ドキドキでした…)

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取組み②で公園など普段見慣れない環境での走行経験を積んだおかげなのか、息子自体は受入れがよく、母のサポートも使わずに自分からボタンを押して進み始めました。
コースとしては、町内を一周回るコースを設定しました。
交差点での右折・左折は介助コントローラで行うので、道路や傾きのある道路等でも安全を確保しながら走行できます。
息子としては「前に進みたいと思ったらボタンを押す」というシンプルな操作で、近所の散歩が実現できてしまいます!

馴染みのある場所で「自分の意志で進む」事で、息子の周囲の環境(家や車など)を見る頻度が増えたというのが印象です。
公園などに比べても周囲環境の情報量が非常に多いため、「お、あれは何だろう?」と息子の視野が広がっている姿を間近で見る事ができたと感じます。

『普段はお母さんに押して貰って進む道、今日は僕がお母さんを運んでやってるんだぜ!』
と言うドヤ顔を見せる場面も垣間見えました。

住宅街など自分の身近な屋外環境で練習するのは、息子の好奇心や意志を引き出すのに有益という感触を持ちました。

今後の取り組み

本取組みですが、ご縁があって毎日新聞の全国版に掲載頂きました。

毎日新聞 大阪版 3/27(金)夕刊

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Web版はこちら
脳性まひの息子のために 「メロディー靴」や「じゃんけん専用義手」 支援機器を自作で50個開発 | 毎日新聞



今回の9月からの電動移動機器練習の取り組みの成果として
・電動移動機器に乗っても怖がらなくなった
・ボタンを押す→自分が前に進むの理解

が出来る様になりました。
これによって、移動する事による周囲の景色の変化を楽しめる様になりました。


次のステップに向けたテーマとして
・自分で進行方向(左右)を選択する練習を進める
(息子にコントローラ操作をどうやって理解させるか)
・息子一人で電動車椅子に乗って動ける様にする


後半(2020/1~5)の練習の様子は次記事で記載しましたので、よろしければご覧ください (2020/5/24更新)
ogimotokin.hatenablog.com